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1.アカミミガメ問題とその現状

◇アカミミガメとは
 アカミミガメTrachemys scriptaは、本来アメリカ合衆国中南部に分布する淡水性のカメで、本種はキバラガメTrachemys scripta scripta、ミシシッピアカミミガメTrachemys scripta elegans、カンバーランドキミミガメTrachemys scripta troostiiという3つの亜種から成っています。日本に輸入・販売されているアカミミガメのほとんどがミシシッピアカミミガメT.s.elegansで、これがミドリガメ(通称)と呼ばれています。今、野外で見られるアカミミガメのほとんどが、ミシシッピアカミミガメT.s.elegansです。

■日本における流通の歴史

 アカミミガメが日本に本格的に輸入され始めたのは1960年代です。体長4cmぐらいのアカミミガメの幼体(ミドリガメ)は、露店の「亀すくい」や街中の金魚屋などで売られ、きれいな緑色の愛らしい姿と手頃な価格帯(1匹:300-500円)によって、徐々に人気が高まりました。1966年には、お菓子メーカーが景品として毎週3,000人に無料配布し、更に人気が高まりました。1970-2000年代には大手のペットショップチェーンやホームセンターなどでも販売されるようになり、アカミミガメは日本で最もポピュラーなペットの一種になりました。

 日本で販売されているアカミミガメのほとんどは、アメリカ合衆国から輸入されたものです。2000年ごろまでアメリカから年間90万匹が輸入されていましたが、その後アカミミガメのペットブームがやや下火になり、2006年の輸入量は25万匹程度まで減少しました。2013年には動物愛護法の改正により露店の「亀すくい」が事実上禁止されたことや、2014年には、本種の法規制が検討されていることが新聞やテレビでニュースになったため、2014年の年間輸入量は10万匹程度まで減少しました(貿易統計参照)。

ミドリガメ
▲幼体は綺麗な緑色

 

■野外に拡がった原因

 アカミミガメは幼体の時は小さくて美しい緑色ですが、3年ぐらいで体色が黒ずみ、背甲長は10cmを超え、やがて小さな容器では飼えなくなります。さらに成長すると、背甲長は約30cmに達します。そのまま大事に飼えば、40年生きます。

 


アカミミガメ成体と幼体▲成体と幼体ではここまで大きさが違う

 しかし、寿命を待たずに途中で飼育を放棄して、野外へ放してしまう飼い主や、うっかり野外へ逃がしてしまう飼い主が増え、1970年ごろから各地でアカミミガメの野生個体が確認されるようになりました。また、1975年には、アカミミガメが保菌していたサルモネラによる食中毒事例が報道され、誤解によって野外への放出が加速したと言われています。ペットブームによって大量に流通したアカミミガメは、その後、野外へ遺棄されたり逸出して野生化し、これらの個体が各地で繁殖して更に分布を拡大させていったと考えられています。


◇アカミミガメが引き起こす問題

 ◆生態系への被害

  野外個体数の増加、分布拡大
 1990年代以降、野外でのアカミミガメの蔓延が数多く報告されるようになりました。いくつかを挙げると、河川水辺の国勢調査では全国の109の一級水系のうち34水系でアカミミガメの生息が確認されました(リバーフロント整備センター1998)。日本全国カメさがしでは、全国から寄せられた淡水ガメ目撃情報の62%がアカミミガメでした(日本自然保護協会2003)。大阪府の大正川では捕獲されたカメの個体数の36.2%がアカミミガメでした(西堀ら2011)。谷口・亀崎(2011)は筑後平野や三重南部、高知西部などにはカメの8割以上がアカミミガメで占められている地域があることを報告しました。東京都の善福寺公園では、捕獲されたカメの56%をアカミミガメが占め、在来種のニホンイシガメは3%という危機的な状況になっていました(片岡ら2007)。
 雑食性のアカミミガメは、水中のさまざまな動植物を摂食するので、同じような食物を利用している在来カメの食物やすみかを奪う恐れがあります(安川2002)。

  水生植物の捕食
 アカミミガメは雑食性ですが、水生植物を好む傾向があります。植物園の池や堀では、浮葉植物やハスが消失するほどの大きな被害を受けている場所があります。佐賀城では濠を埋めるほど群生していたハスやヒシが(有馬2012)、兵庫県の篠山城跡南堀ではハスが、福岡県では水路を覆っていたオニビシが、アカミミガメによって消失しました。滋賀県の彦根城の堀では希少種オニバスが食害され、実態調査が行われています。

▲アカミミガメ防除前の水路。水生植物が見当たらない。(2012年初夏、徳島県鳴門市) ▲アカミミガメ防除後の水路。ヒシが水面を埋め尽くしている。(2013年初夏、同地)



  水鳥の捕食
 アカミミガメが高密度に生息している池では、初夏、水面にいるカイツブリやカルガモのヒナがアカミミガメによく襲われます。ヒナが移動すると数頭のアカミミガメが追跡し、水中から咬み付いて飲み込みます。連続的にパクパク飲み込むことができ、ヒナの数が1日で半数以上減ってしまうことも珍しくありません。


カルガモのヒナを襲うアカミミガメ   2011年5月 東京都世田谷区


 ◆農業への被害
 徳島県鳴門市では近年、特産品のレンコンの生育不良が深刻化し、調査の結果、アカミミガメによる食害であることがわかりました。春に伸長した新芽をアカミミガメが咬むことによって成長の遅れや葉付きの不良が生じ、収量の低下につながっていることがわかりました。
 2011年のレンコンの被害額は1,500万円と推計され、カメ専門家を交えて徳島県と鳴門市、JA、生産者などが駆除を行っています。

▲ レンコン田の水路にワナを設置する(徳島県鳴門市)





◇アカミミガメによる被害とその対策例

全国の新聞報道から抜粋しました。

 ▼ミドリガメ飼育規制へ(2014/1/9 読売新聞夕刊より。pdfはこちら)

 ペットとして人気がある外来種のミドリガメについて、環境省は輸入や飼育を禁止する方針を固めた。
 野外に放されたミドリガメが、もともと日本にいたイシガメを準絶滅危惧種に追いやるなど生態系を壊しているからだ。
 ただ、数十万匹とみられるペットの飼育を禁じるのは初の試みで、混乱も予想される。同省はまず輸入を禁じ、飼育禁止は後回しにする考えだが、カメを処分したい人や飼い続けたい人にどう対応するのか、頭を悩ませている。

◆寿命は40年

 ミドリガメは北米原産の外来種で正式名称はミシシッピアカミミガメ。ペット店や露店で1匹500円ほどで売られている。寿命は40年ほど。子ガメは5センチ前後だが、成長すると30センチほどになり、家庭用の小さな水槽で飼うことが難しくなる。多くが川や池に放されて増殖したとみられ、国内のカメで最も多い種類になった。
 日本固有種のイシガメに比べ、ミドリガメは一度に2倍の量の卵を産むなど繁殖力が高く、体もひと回り大きいため、イシガメのエサや生息場所を奪った。イシガメは数を減らし、2012年に準絶滅危惧種に指定された。
 環境省は昨年9月にまとめた外来種被害防止行動計画案にミドリガメの「規制を検討する」と明記。今後、外来生物法で輸入・販売や飼育が禁じられる「特定外来生物」にミドリガメを指定することにした。

◆数十万匹
 特定外来生物に指定されているのはアライグマやブルーギルなど107種類。これらを飼うには、「脱走」を防ぐオリなどを設けた上、環境省に飼育許可を得なければいけない。ところが、同省の推計では、ミドリガメの飼育数は少なくとも数十万匹に上る。
 同省は、許可を得れば飼育は認める方針だが、担当者は「すべての飼い主が許可を申請すれば事務処理は追いつかない。許可手続きの簡略化など手だてを講じなければ」と頭を抱える。
 同省が心配するのは、禁止後、飼い主がこぞって野外に放す事態だ。このため、禁止を実施する時期のほか、カメを手放したい人からどうカメを引き取るか、飼い続けたい人にどこまで厳重な管理を求めるかなど対策を検討している。

【当会の見解】
 記事の大前提である、環境省の動きについての記述が間違っています。

●読売新聞:環境省は昨年9月にまとめた外来種被害防止行動計画案にミドリガメの「規制を検討する」と明記。今後、外来生物法で輸入・販売や飼育が禁じられる「特定外来生物」にミドリガメを指定することにした。

●修正と補足:外来種被害防止行動計画案は、2014年の公表を目指して現在策定中です。同案を公表後、アカミミガメの特定外来生物指定についての検討が始まります。その際に、外来生物法以外の法律で規制を掛けられるのであればそれを導入するという選択肢も検討されます。特定外来生物に指定することにした、というのはかなり先走っており、誤報です。

夕刊版で、「規制を進める政府vs懸念するペット業者」という構図を示しているのもいただけません。規制に賛成か、やむを得ないという考えを持っている良心的な事業者は少なくありません。量販店を含む2店から規制に否定的な声を拾い、ペット界は生物多様性を顧みない業界であるかのような印象を与えてしまっています。





◇各国の定着状況

 アカミミガメは主にアメリカ合衆国でペット用に大量に養殖され、全世界へ輸出されています。都市部の汚れた水にも適応できるので世界各国で定着しています。安川(2012)はアカミミガメが定着している国・地域として74ヶ所を挙げています。
 また原産国であるアメリカ合衆国では、自然分布域の東南部のみならず、アラスカ州を除くすべての州で生息が確認されています。外来個体群の多くは亜種ミシシッピアカミミガメで、亜種のキバラガメ、カンバーランドキミミガメの分布域にも持ち込まれ、交雑が起こっています。
 これらの定着の実態や侵略性の高さから、世界の侵略的外来種ワースト100に選定されています。

 ◆諸外国の輸入禁止措置(安川2012)
  アメリカ合衆国
 ハワイ州では在来生物保護の観点から輸入、本土からの持ち込みを禁止しています。フロリダ州などでは在来カメ保護の観点から州内への持ち込みや販売、飼育を規制しています。

  E U
 在来カメ保護の観点から輸入を禁止。

  大韓民国
 生態系を攪乱する外来種であるとして、代替種も含めて輸入を禁止しています。

  オーストラリア
 アカミミガメを含む外国産カメの生体の輸入を禁止しています。


 ◆日本の対策状況


 
 動物愛護管理法では飼育動物の不適切な飼養や野外への遺棄を規制しています。哺乳類と鳥類、爬虫類が対象で、カメも含まれます。罰則は100万円以下。しかし法律の認知度が低く、遺棄行為の現場を確保でもしない限りは処罰が困難で、適用されていないのが実態です。
 2005年に施行された外来生物法では、外来生物の中でも特に大きな被害をもたらすものを特定外来生物に指定し、流通等を厳しく規制したり、野外で防除を行っています。アカミミガメについては現在のところは特定外来生物の指定がなく、輸入・販売・譲渡・飼育等に規制がありません。
 2010年に名古屋市で開催された生物多様性条約締約国会議(COP10)では、地球上の生物多様性に対する危機を解決するために、日本を含めた加盟国は20項目に及ぶ「愛知目標」に合意しました。このうち、「目標9 外来種」では、2020年までに、悪影響の大きい外来生物の侵入経路が特定され、管理され、野外において根絶か低減化されることが謳われています。こうしたなか、2013年、環境省では愛知目標達成のために、アカミミガメの特定外来生物指定に向けた検討が始める方針を示しました。これによると、2014年からアカミミガメの法的規制に関する検討を行い、2019年までには段階的な規制の導入を行われる予定です。アカミミガメの輸入規制が実現すれば、日本の外来種対策の大きな前進になることは間違いないでしょう。

◆参考になる資料

 


・アカミミガメ防除のすすめ方 ・日本カメ会議&
ニホンイシガメシンポジウム講演要旨集
・ 第2回淡水ガメ情報交換会 講演要旨集


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